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高松地方裁判所 昭和31年(行モ)1号 決定

香川県大川郡白鳥町湊八百十二番地

申請人

児島丈吉

右輔佐人

佐々木正行

香川県大川郡長尾町

被申請人

長尾税務署長

為広正一

右当事者間の昭和三十一年(行モ)第一号滞納処分執行停止決定申請事件につき当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件申請を却下する。

申請費用は申請人の負担とする。

理由

申請人は、被申請人が申請人所有の香川県大川郡白鳥町湊字岡前八百十三番地の一田一反六歩に対して同県同郡同町湊八百十二番地児島丈吉の滞納税額金八万四千四百七十円に関し該土地を差押した上昭和三十一年二月二十八日公売せんとしている滞納処分の執行は本案判決確定までこれを停止する旨の決定を求めその申請の理由として「申請人は昭和二十九年十一月頃より前示不動産を耕作しているものであるが申請人は前示児島丈吉より該農地の贈与を受け昭和三十年十一月二十日その旨所轄農業会に届出をなし且つ所定の手続を経て同年十二月六日所轄県知事より農地譲受けの許可を得た。そして高松法務局三本松出張所において昭和三十一年一月五日付にて該農地の所有権移転登記を終えたものである。しかるに被申請人は申請趣旨記載の理由により該農地に対し昭和三十年十二月二十七日に国税徴収法に基き差押をなした。そこで申請人は右差押は不当である旨被申請人に通知しておいたが被申請人より昭和三十一年二月十六日付で右差押物件は同年二月二十八日に公売に付する旨の通知を受けた。しかし右公売が執行されると今年の米作は収穫したが、現在その耕作する田畑は田約二反のみでこの他月約八千円の手袋の下縫(ミシン二台による家内工業)による収入しかないので生計に困り償うことができない損害を被るので同年二月二十五日被申請人を被告として高松地方裁判所に右差押解除請求の訴(昭和三十一年(行)第二号)を提起したのである。そしてこのような損害を避けるために右滞納処分を阻止すべき緊急の必要があるから本申請に及んだ旨述べ疎明として甲第一号証(不動産登記簿謄本)同第二号証(差押財産公売通知書)同第三号証(県知事の許可年月日証明書)を提出した被申請人の右に対する意見を聞いたところ被申請人は「公売期日が明日に迫つて居り若し公売処分停止決定がなされると公売関係人に通知する時間がなく公売期日に参集する関係人は多大の損害を蒙ることとなる。そして被申請人は申請人が所有権を取得しその旨の登記を了する以前にすでに本件不動産につき差押をしているのであるから申請人としてはその所有権取得を被申請人に対し対抗できないものであるから本件申請は却下せらるべきである旨主張した。

よつて執行停止の理由があるかどうかについて考えるに疏第一乃至第三号証によると申請人は前示児島丈吉より前記不動産の贈与を受け昭和三十年十二月六日に所轄県知事の譲受許可を受けた上昭和三十一年一月五日これが所有権移転登記を終え他方被申請人は昭和三十年十二月二十七日に該不動産に対し前示児島丈吉の滞納税額金八万四千四百七十円の滞納処分としてこれを差押えた上昭和三十一年二月二十八日にこれが公売処分を予定していることが一応認められる。そして一方被申請人が現在右不動産の他に田地約七畝を耕作ししかも本年米作の収穫は終つており他に月額約八千円の収入があることはその主張自体に徴し明らかである。してみると本件公売処分が終局的に適法であるか否かはしばらく措き右処分がこのまま続行されることによつて申請人の蒙る損害はせいぜい本件不動産の所有権のそう失だけでそれ以上に直ちに申請人の生活に支障をきたすというような特別の事情があるとは考えられずさような損害は行政事件訴訟特例法第十条にいう「償うことのできない損害」といえないから本件申請はその理由がない。よつてこれを却下すべきものとし手続費用につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり裁判する。

(裁判長裁判官 横江文幹 裁判官 谷本益繁 裁判官 弓削孟)

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